学校行けないならサンティアゴ巡礼・カミーノを歩こうよ!


学校へ行くと頭痛と腰痛が出る
中学校生活が始まった次女は、新しい制服に袖を通しワクワク感でいっぱいでした。
中学一年生の頃は、勉強や部活に元気に取り組んでいました。
それが、中学二年生になった頃から、様子が変わって来ました。
新学年のクラスには、強いリーダーの女子とその取り巻きのグループがいて、彼女らがクラスの雰囲気を仕切っていました。意見が合わない子やおとなしい子は、強い口調で外されたり徹底して無視されるといったことが起きていました。
そのクラスになってから、娘は学校へ行くと頭痛と腰痛、吐き気が現われるようになり、登校しても教室に居られず保健室のベッドで休むようになりました。
特に腰痛が辛そうでした。整形外科をいくつか受診しましたが、どうも腰に原因は見当たらないということでした。
総合病院でレントゲン、血液検査、CT、心電図の検査を受けたところ、起立性調節障害と診断されました。立ち座りの動作で脈拍の調節が適切に働かず、様々な不快な症状、腰痛、頭痛、吐き気なども出てしまがうということでした。また、その症状の起因のなかに、強度のストレスということがありました。
病院から、頭痛と腰痛のための痛み止め薬を処方され、痛みが出たら薬を飲むという対処療法で、何とかやり過ごすことにしました。
娘の状況は、朝は起きられず腰痛、頭痛で遅刻して登校…。
通学したのち、保健室のベッドで横になる、または早退…。
頭痛と腰痛が辛い日は、欠席…。
そういったことの繰り返しになっていきました。
休むと授業に遅れてしまう…。来年は高校受験なのに…。
一方で、強い女子グループが、クラスメート女子一人ひとりに対しての極端な態度の違いに、戸惑いと怖れ、そして違和感でいっぱいでした。
学校へ行っても不快な症状が出て教室に居られず、授業が受けられないのなら、行くのが無駄のように見えました。しかし、娘は完全に不登校になることへの強い怖れがあるようでした。とにかく登校するという、自分で出来ることの精一杯をしていたのでした。
眉間にしわを寄せ、腰が痛いと言いながらも、トボトボと歩いて学校へ行く娘の後ろ姿は、不安に満ちていました。痛み止めの薬を渡すことしか出来ない私も、心配で暗い穴に吸い込まれそうでした。
半年後には、起立性調節障害の症状が強くなり、登校することがほとんど出来なくなりました。
学校へ行けなくなったら、更に辛くなってしまうだろうな。
無理しないでいいのよ。
青白い顔で、笑顔が無くなってしまった娘を見て思いました。
ああ、願いは娘が食事ごはんを美味しく食べよく寝て笑って過ごしてくれるだけでいい。学校だけが全てじゃないのだから。
学校に「行けない」じゃなくて「行かない」
娘は起きれず、布団に入って寝たり起きたりの生活になりました。
学校の情報が耳に入るにつれ、焦ったり落ち着かなかったり、
学校に行けない自分を責めてみたり…、でした。
どうしたらいいのだろう…?
ここを物理的に離れてみようか。思い切って空気の良い所で、過ごすのも心身ともに良さそうでした。
けれど、私たちに田舎はないし…。
娘だけでなく、私も手助けして一緒にこの中学時代を乗り切れる方法が何かないだろうか…。
そうだ!
旅に出てみようか…。
でも、予算はそんなにないナ…。
う~ん、でもここは、掻き集めてでも何とかしたい。
学校が気にならなくなるような体験をしてみたい。
それは旅なんじゃないかな…。
(私自身が旅好きなので、そこにシフトした訳ですね…。(^^;)
学校に全く行けなくなる前に、旅に出てこちらから学校に「行かない」と言ってみよう…。
サンティアゴ巡礼、行くなら今だっ!
旅に出るとしても、ただどこかへ行き、
楽しく過ごすリゾート感覚の旅ではダメだと思いました。
ちょっと不便な旅…。
なるべく長い旅…。
何か一緒にするような…。
何かチャレンジをするような…。
その時、私は
スペインのサンティアゴ巡礼の道…
が心に浮かんだのでした。
以前、過労で一週間ほど入院したことがありました。
その時に、たまたま病院のベッドで読んだ本が、これらでした。
『星の巡礼』パウロ・コリーリョ著
『カミーノ』シャーリーマクレーン著
それは、およそ800㎞を歩く旅の道の話なのですが、そもそもはカトリックの巡礼路でした。現在は、道そのものが世界遺産となり、世界中からバックパックを背負い歩きに来る人々が大勢いるのでした。私もいつかきっと歩いてみたい!と考えていました。
そうだ!今こそサンティアゴ巡礼に行くのがいいかもしれない…。
しかし、はたして、私と娘が本当に行けるのだろうか…。
増してや体力の落ちている娘です。
それを私なりに検証してみました。
★この道は本来、カトリックの巡礼路だが、現在はカトリック信者でなくても歩くことが出来る。(1993年に世界遺産に登録)
★決められた巡礼道を、自分で出来る距離を歩いて行けばよい。
★ポピュラーなフランスからの道だと、大人で800㎞を40日弱で歩くことが出来る。
★宿泊費が一人1000円程度。時々、宿泊費が寄付のところもある。
★パンとチーズとりんごをかじっていれば、一日の食費は1000円と掛からない。
ヨーロッパに長く滞在すると、大変な金額が掛かりそうなイメージですが、このスペインの巡礼の道は贅沢をしなければ、一日2,000円で暮らせそうでした。
調べてみると、予算の面では案外と行きやすいことが分かりました。
しかし…。
800㎞も長い距離を歩けるのだろうか。
私はスペイン語は出来ないし、英語も中学生程度の実力でした。
そんな状態で、子どもを連れて行けるのだろうか…。
旅先で全財産を盗られたらどうしよう…。
子どもか私が、道中ケガや病気になったらどうしよう…。
考え出すと、心配ごとは尽きませんでした。
けれど…、
サンティアゴ巡礼、行くなら今だっ!
今ならちょうど、私も求職中でした。
またタイミングよく、保険の満期返戻金がありました。
「学校を休んで旅に出ようよ!」娘、学校の反応は…?
中3の4月から学校を2カ月休んで、スペインの道を歩く旅に出てみない?
ええっ?!無理、無理だよ。高校に行けなくなっちゃうよ!!!!
じゃあ、担任の先生に相談してみようよ。
二人で担任の先生に相談しに行きました。
今、娘は学校に行くと頭痛と腰痛が出て学校に行けなくなっています。思い切って二か月、学校を休んで、サンティアゴ巡礼というスペインを歩く旅に出てみようと思うのですが・・・?
すると、担任の先生は
「確かに、クラスの雰囲気がとても難しいのは知っています。サンティアゴ巡礼で800㎞歩く旅ですか⁉それは素晴らしい!一生で、そんな経験をできるチャンスは、なかなか無いですよ。
今、行けるなら娘さんにとって、とてもいい!外に出てたくさんの物事を観ながら歩くことは、きっと良い刺激、影響があると思います!
ぜひ、行ってらっしゃい。
2か月でも6か月でも。
高校受験の当日には、日本に居るのでしょう?
問題ないですよ!」
と言ってくれたのでした。それは、心強く私と娘の背中を押してくれました。
後日、校長先生から連絡がありました。
校長先生は
「この中3の大事な時期に、学校を3か月も休むのですか?
こういうことは 前例にない のですよ。
増してや、カトリックでもないというのに、カトリックの巡礼に行くのですか?
評定ゼロですよ。高校受験を考えているのかね?」
という反応でした。
最終的には「勝手にしてください!」という言葉をいただきました。
校長先生も、変わり者のお母さんと思ったことでしょう。
考えは「お腹の底から笑える生命力のゲット」にシフトする。
後から校長室のやり取りを冷静に考えてみました。
前例⁈ そんなもの、気にしてどうするのよ~!
いま、娘はお腹の底から笑える生命力が欲しいのでした。
親としての考えは
学校や受験といったことよりも、
もっと生きていく基本の部分へと、シフトしていきました。
だってもう、ここしばらく娘の笑顔を見ていないのだから。
2,3か月歩く旅なら、体力もついて頭痛、腰痛も治まってくるのじゃない?
うん、そうかもね…。でも、弟はどうするの?
あ~!、そうよね、置いていく訳にはいかないわよね…。
お姉ちゃんと弟、4歳違いで生活や遊びで接点が少ないし、きっと、このチャレンジは、二人にとっても貴重な経験になるわ!サンティアゴ巡礼にお姉ちゃんと一緒に連れて行くわ!
へ?何それ?歩く旅?ゲームできるかなぁ??
何にも知らない弟…。
小学5年生で10歳の弟は、小学校の先生に
「スペインのサンティアゴ巡礼に行くので3ヵ月学校をお休みします。」
というお話をすると
「帰ってきたら写真を見せてくださいね。頑張って歩いて来てね!」
と先生からの声掛けがあり、それでOKでした。
こうして、母と中3の娘、小5の弟のカミーノ行きが、形になっていくのでした。