23/60スペイン巡礼を逆コースで歩く人・見ざる言わざる聞かざるの3人
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「学校に行けないなら、スペインをひたすら歩く旅に出てみない?」と15歳次女と10歳の弟を連れ、サンティアゴ巡礼(カミーノ)の旅へ行くことにしました。私は英語もろくに話せず、そんな体で子ども二人を連れ、海外の巡礼に行くなんて…、巨大なチャレンジでした。けれど、なんとかして現状の流れを変えたかったのでした。歩き始めの頃は、背中のバックパックが重く、足元はふらつき、疲れと不安のかたまりでした。果てしなく続く長い道のり、日照りや雨風、時には雪!、ごろごろの石道、泥道、草や木に囲まれ、自由に歩きまわる動物、見知らぬ町、様々な国の人々と出会いと別れ、そしてひたすら、ひたすらに歩く日々でした。しかし巡礼終盤になると、子どもたちは、自然の声を、心と身体で聞いているかのようでした。そして『カミーノの住人』と言えるような自由さで、旅の不自由を楽しんでいました。歩いた距離は930km、かかった日数は60日間でした。
5/8(土)→オンタナス:サヨナラは無し! 10.6㎞/€25 時計台近くの宿@€5×2
先に朝食を済ませたセルジュが、体育館へやって来ました。
「先に出発するよ。」と伝えに来てくれたのでした。
Denは、起こしても起こしても寝袋をかぶってしまうので、そのままにして、Chaiと私は体育館の外へ見送りに出ました。
Kumi3
セルジュは「いや、必ずまた会えるから、サヨナラは無しにしておこう!」と言いました。
Chai
私たちは、ハグをしてお互いに声を掛け合いました。
「ブエン・カミーノ!」
セルジュはバックパックを背負い、歩き出しました。
私たちは、体育館へ戻りました。
Denを起こしベッドを畳み、倉庫の中へと片付けました。
それからダイニングで朝食をとりました。
8時半、私たちも歩き出しました。
セルジュが、出発前に巡礼仲間として、わざわざ声を掛けてくれたことが嬉しく、私とChaiは足取りも軽く歩き出しました。
カミーノを逆行する人
昨夜の雨は上がっていましたが、道は泥でグチャグチャになっていました。
しばらく田舎道が続きました。
Den
そんな人は滅多にいないので、ことさら注意を引きました。
カミーノを逆方向へ歩いていると、
必ず聞かれます。
「いったいどうしたの?」
「何か忘れ物したの?」
「歩いて戻るつもり?」などなど。
あっ?
3人はビックリしました。
おとといブルゴスで別れたリアでした。
ニコニコと手を振ってくれました。
こんな田舎道で再会するとは!
しかも逆戻りしてるなんて!
Kumi3
リアは言いました。
「ハーイ!逢えたね!!
途中で足が痛くなってどうにもならないの。
舗装路に出て、ブルゴスまでヒッチハイクするわ。
それからバスでレオンの街まで行くつもり。
レオンの大聖堂を見て、スケッチをしながらゆっくり過ごそうと思うの。
カミーノは…もう難しいのよ…。」と言いました。
確かに…。
足を引きずって辛そうでした。
そうなの…、本当に残念だけど、またリアの顔が見れて嬉しいよ!
Kumi3
「これ、Denに!」とリアはDenの首に
かわいいワンコがついたブルーの襟巻きを掛けてくれました。
きっとリアは、カミーノを逆に歩けば、私たちに必ず出会うだろうと予想していたのでした。
私たちはハグをして2度目のお別れをしました。
Den
Chaiと私のバトル
リアと別れ、歩き出すと、Chaiが私に向かい言いました。
リアと話した時や、他の外人と話すとき、ママの英語、文法がめちゃくちゃ。ゼスチャーもすごく変だよ。ちょと恥ずかしくなるよ…。
Chai
Kumi3
がっくり…。
ショックでした。
私だって変なのは十分に知ってるわよ!
なんとかして20%しか伝わらない言葉の意味を、必死に30%、50%〜に上げようとして身振り手振りのジェスチャーを加えているというのに。
私は英語がダメなのはわかっているけれど、、、
必要な情報を聞き出すために…
みんなのために、なりふり構わずやってるっていうのに~っ!
それなら、自分から話すことをしてよ。私はみんなの為に骨を折ってやっているのに。黙っていて、失敗しない立場にいて、そんなことを言うのって無いでしょっ!
Kumi3
Chai
Chaiは怒って、口をきかなくなりました。
そんな風に横で見られていたのか…。もう、外人と話すことをやめようかな…。
Kumi3
と淋しい気持ちになりました。
DenとChaiのバトル
それから少し歩いたところで、休憩にしました。
道端の草の上にバックパックを置き、座りました。

ディア・スーパーマーケットのチョコサンドビスケット。
これは3パックで1ユーロ、リーズナブルなうえ、最高に美味しい!と、みんなのお気に入りでした。
わーいわーい!
と包み紙を開き、食べようとしたその時…、
Chaiが、Denのリュックを倒してしまいました。
雨でぬかるんだ道に、
Denのバックパックは倒れ、泥が付いてしまいました。
Chai
Chaiはすぐに謝りましたが、Denは、猛烈に怒りました。
ああっ!汚れちゃったじゃん、もおお~、許さないからっ!
Den
と叫び、大好物のチョコビスケットにも手をつけませんでした。
私とChaiは、ポケットからティッシュをかき集め、Denのバックパックの泥を拭いました。
そんなこんなで、気持ちが安らぐこともなく、早々に休憩を終え歩き出しました。
Denは ダンダンダンッ!と怒った足どりでした。
私は、追いつき
ねぇ、わざとじゃないんだから。事故なんだからさ。Chaiは謝ったのだし、一緒に泥を拭いて終わりでいいじゃない。
Kumi3
Den
Den!アンタ幼稚っぽいよ。いつまでもそんな態度で!
Kumi3
Denは無視して、バンバンバンッ!と歩き出し、
全く、聞く耳を持たなくなってしまいました。
それぞれが怒って歩くカミーノ
Chaiは 口をきかず、ものすごい早足で歩きました。
その中間をDenは 耳を貸さず、乱暴に歩きました。
こんな光景、見たくないわ…せっかくのカミーノで…。
3人の距離は、どんどん離れていきました。
それぞれが ささくれた心 でカミーノを歩いているのでした。
私は、母と子どもでスペインの大地を歩くという…
滅多にできない貴重な経験をしている!
という特別な心の持ちようがありました。
しかし、考えてみれば…。
人の中身が入れ変わった訳ではありません。
日本での、狭い家の中と同じような
些細なもめ事が、日々起きるのでした。
Kumi3
この先、このもめ事がら発する「マイナスの感情」を少しでも減らすにはどうしたらいいのだろう…。
薬か絆創膏か、それとも何か部品を足すか取るか…、
出来る工夫はないのだろうか。
イジけて歩く2人の背中を見て
せっかくカミーノに来ているのに…。もったいないよ…。
Kumi3
せめて私だけでも景色を楽しもう…と思ったのですが…
今日は、どんよりとした暗い空の下、景色がモノクロに見えました。
見上げてもゼロ…。
プラスの感情が湧き上がってきませんでした。
この日は、思うように距離を進めることができませんでした。
みんなの気持ちがバラバラで、足もバックパックも、いつもより重く感じられました。
10kmちょっとの町まで歩くのが、やっとのことでした。
オンタナスの町は違う国のよう
オンタナスの町が見えてきました。
古く寂れた雰囲気でした。
オンタナスの町は、華やかなブルゴスの街から比べると、何百年か前の町のように感じられました。
新しい町はワクワクするものなのですが、空の暗さも手伝い、気持ちが盛り上がってきませんでした。
晴れた日の余裕のある気持ちで来たなら、古いヨーロッパの田舎が見れ、楽しめたと思うのですが…。
今日のこの下向きな気持ちでは…。
このあたり、人が住んでるのかな?
洗濯物があるから住んでるのよね…。
アルベルゲを見つけると、早々にチェックインしました。
3人は、口をききませんでした。
昼はパンとサラミとチーズとオリーブ、ツナ缶、トマト。
夜は、またその残りを食べました。
終日、曇り空でかなり冷えました。
水道の水が冷たいこと!
それでも、下着は洗わないといけません。
着換えがギリギリでした。
3人は、黙々と自分の服を洗いました。
衣類を絞る手が悲鳴をあげました。
一緒に絞れば少しは楽なのだけど、、。
やっと下着やシャツを干し、洗濯が終わりました。
おじさんの咳で寝そびれる
その日の夜は、ChaiとDenは、やることもなく夜8時には寝袋に沈み込みました。
私は日誌を書き、夜10時ぐらいに寝袋に入りました。
ところが、上のベッドのおじさんの激しい痰がらみの咳で眠りそびれてしまいました。
ゴホッゴホッゴホッゴホッゴホッ!
ゲホッ、ゲボッ、ガロン、ガロン、ガーッペッ!
Kumi3
子育ては1+1=2にならない
Kumi3
子どもたちの為になると思って、様々なことを当たり前と思ってやってきました。
それが
この頃「1+1=2」にならなくなってきたのでした。
やってくれてヨカッタよ!
うまくいったよ!
助かった、ありがとう!
となると思ったら…
大間違いでした。
いらないのに!
見に来ないでよ!
来ないでいいよ!
余計なことしないでよ!
うるさいなぁ!
…なのでした。
ほんの数年前まで…
子どもたちが幼い頃は、考えもしませんでした。
無我夢中で母親をしてきました。
しかしこの頃…、
子どもたちが、私を批判し始め、煙たがり始めているのでした。
つまりは、子どもたちは 成長してきた…ということでした。
できるようでできないような
わかっているようでわかっていないような
大人のようで子どものような…。
しっぽが生えた
オタマジャクシのようなカエルでした。
片目をつぶって任せてみる…か
子どもたちを取り巻くあれこれが目に入ってしまうと、言わずには、また、やらずにはいられなくなってしまうのでした。
親だから、助けたり、正しく導いていかなくては!と思うのは当然でした。
けれど、その加減に変化が必要な時は、必ず来るのでした。
きっと今がその時なんだわ。少しやり方を変えてみないといけないわ~。
Kumi3
例えば、このカミーノで外国人やオスピタレロに
「スーパーマーケットはどこですか?」と、ほぼ毎日のように聞いていました。
それを聞くときは、Chaiにお願いしてみようかな。
Kumi3
今まで「私が聞かなくちゃ!」と腕まくりをし必死にコミュニケーションをとってきたのだけれど、、、。
Chaiは、できるのよね。
私が、子どもたちの機会を奪っているのかもしれない…。
Kumi3
ひんぱんに起きるDenとChaiのバトルも、2人に任せておけばいいのだ。
追いかけてまで「アンタ、幼稚っぽいよ!」なんて言わなくてもいいんだね。
2人は、仲直りするか、ずっと険悪かは知れないけれど、2人で解決すればいいだけなんだ。
私が介入することで、Denの怒りの矢印は複雑化する。
そこには、何もいいこと無いのでした。
人間関係もシンプルが一番よね…。
彼らを信じて任せてみよう!
気になるだろうな…、
何か言いたくなるけれど…。
たとえ結果がうまく運ばなかったとしても…だ。
そうしていかないと、
Kumi3
教会の鐘が鳴りました。
2回、午前2時でした。
Kumi3
けれど、3回目の鐘は聞きそびれました。