54/60心持ち次第で辛くも楽しくもなる、巡礼仲間の言葉は一生の宝物


6/8(火)→アズ・モロナス のんびりな巡礼者たち 19.8㎞/€31 バルの地下室 @€7×3
赤い格子のパイプベッド、下の段に3人で寝ました。
昨夜は、3人とも疲れていたので、いつもなら、暑い~、いびきがうるさい、トイレ~!などで夜中に起きるのですが、そんなこともなく、ぐっすりと熟睡することができました。
私は朝5時に目が覚めました。このアルベルゲは50人が泊まっていましたが、出発の支度をしている人は、誰一人いませんでした。
サンチャゴ・デ・コンポスーラまではメインの巡礼道だったので、巡礼者の気合の入り方は目を見張るものがありした。朝5時には、ガサゴソと出発の支度をする気配が、そこら中に感じられたものでした。
いま、このフィステラまでの巡礼道は、サンティアゴ大聖堂までたどり着いた後のオプションの道でした。
巡礼者たちの気合の入いり方が、ぜんぜん違うのでした。のんびりとした空気が漂っていました。
今日も20㎞歩くのだわ。7時前には出発したいな~。
バックパックの中身を再点検
私は、荷物をいくらか置いていかないといけないと思いました。昨日は、サンティアゴの街で買ったお土産の重さが、肩に相当響いていました。
重さを増したバックパックのせいで、足の裏がヒリヒリと痛むほどでした。それで、体力も消耗しました。
これはまずいわ~。軽くしないと今日も一日、辛くなってしまう…。
皆が寝ている部屋から、食堂にバックパックを引きずり出し、電気を点け持ち物を点検してみました。
たとえ、300g、500gですら、軽くなれば楽になるのでした。
長袖のシャツを一枚置いて行こう。食料入れ用のプラスチックケースを捨てることにしよう。持っていこうとしていたペットボトルに入れ替えた赤ワインの残りも置いていこう。ここでは水の重さのほうが大切です。
巡礼2日目に、ロンセスバーレスのリサイクルコーナーからもらって来たえんじ色のジャケットがありました
これ、重いわ。置いて行こう…。でもどうしよう…。やっぱり持っていこうか。でも重い~、置いて行こう。ううん、ここまで持ってきたのだもの。日本できっと着よう。もうちょっと頑張って持って歩こう!
みんな、あちこち痛い!
ChaiとDenを起こし、ササッと朝食を済ませ6時50分には出発することができました。
夜中に雨が降ったようでした。
教会を右手にみながら、だんだん家が少なくなっていきました。
そろそろ町が終わるところでした。
向こうに町がみえました。
歩き出し、しばらくするとDenは お腹が痛〜い!
Chaiは 頭が痛〜い!
足のマメが痛いのよね…。
Denは乾かないタオルをバックパックに引っ掛け、干しながら歩いていました。
おまけに雨が降ってきました。
Chaiは雨カッパを着ました。Denはバックパックをビニールの風呂敷で覆いました。
もお〜。参ったね〜。 今日は10kmぐらい歩いたところでアルベルゲに入っちゃおうよ。 うん、そうしたいっ!
しかし、そう都合よくアルベルゲは見つかりませんでした。
みんな、テンションが低く、やっとこさ荷物を運んでいるといった状態でした。
雨はさらに強く降ってきました。
あちこち水が沁み、気持ちは下がってきました。
一歩一歩がつらく感じ3人は無言で歩きました。いつまで続くのだろう。 アルベルゲは、あとどれだけ歩くのだろうか…。寒い。足がぐちゃぐちゃだ~。
バルのポテトと犬で充電
13km歩いたところで小さなバルを発見しました。山道の一軒家でした。
ここで休んでいこうか。
ずぶ濡れの私たちは、すっかり全身が冷え切っていました。
バルの中は、一組の地元のお客さんがいました。私たちが入るとバルのマスターもお客さんたちも
「あらまあ、ずぶ濡れで。まあまあ、こんな子どもたち!大変だったね~。」と驚きながら、ねぎらい、歓迎してくれました。
お店は素朴な木のテーブルと椅子があり、落ち着いた雰囲気でした。
バックパックを下ろし、雨から解放されカッパを脱いだときの解放感といったら最高!安堵して、顔が自然に緩んでしまいました。
カフェラテ、コラカオ、コンビネーションプレートを頼みました。
コラカオが来ると、うなだれていたChaiとDenも、パッと花が咲いたように表情が明るくなりました。温かい飲み物が、冷えた身体の芯を溶かすように流れ込んでいきました。
私は、熱いカフェラテをすすりながら飲みました。全身が温まりメキメキと回復してくるのがわかりました。
少しすると、やけどしそうに熱々のフレンチフライポテトが、これでもか~!と大サービス山盛りに出て来ました。それにちょっと焦げたベーコン、目玉焼き2つがプレートに乗っていました。
これだ~っ、食べたかったのは!
ほふほふほふ〜っと言いながら、むしゃむしゃむしゃ~と食べました。
ああ、からっぽ...。
私もすっかり、写真を撮るのを忘れるほど、美味しいフレンチフライでした。
トイレはどこですか?と聞くと「外にあるよ~」と言うので私は席を立ち、ドアの外に出ました。
すると、グレイのモップのような犬が後ろ足で立ち、両前足をひゃんひゃんと振って見せました。
これは日本で待っている、うちの犬にそっくりな仕草でした。
大急ぎでトイレを済ませ、ChaiとDenを呼びに走って戻りました。
ねえ、外の犬見て!おうちで待ってるプちゃんにそっくりよ!
ええっ~!ほんと?
ふたりとも、急いで外に出ました。
雨と泥だらけのモップ犬が飛びついてきました。
かわいいっ!こいつぅ~!
ワハワハハ!
笑いながらじゃれ合って遊びました。
いつしか雨も小ぶりになっていました。
そこには、ちょっとしたアスレチック遊具がありました。
やっほ~!遊んでいこうよ!!
バルで回復、気持ちに余裕
バルですっかり心も身体も回復した3人は
ぎゃはは!なにこれ~?
と変なトカゲを発見したり…。
黒猫ちゃん、きょうだいなの?親子なの?
Den、ちょっとそこ立って。なんか面白い植木の刈りこみ方よね!
これもなぞ、面白いね!
アー、またこいつ!いたいた。
子牛がぬ〜っと現れて、しばしにらめっこをしました。お互い気になるのね。
歌ったり、くるくるまわってみたり、プちゃんのこと話したり…。
あっ、牛がいるよ~。
うまく一列に並んでいるもんだね。
あ、ロープの左側の草をどんどん食べて移動していくんだね!
番犬のタローとジロー(仮名)が
「おいおい、なんか用かい?」と駆けてきました。
何でもないよ~。
走って逃げると追われてしまいますが、
そのまま歩き続けてると、ワンワンワンッ!と吠えてから、持ち場へと戻っていきました。
とうもろこし畑は、芽を出したばかりでした。
暗い空、再び雨でもへっちゃら
空が暗くなってきました。
畑の作物は芽を出したところでした。
雨が降りそうで寒いけれど、バルでエネルギー充電したからへっちゃら!
道の途中に、誰かの置いていったシャツがありました。雨にぬれてドロドロね…。
牛は「雨で草が活き活きしてうれしいよモー!」と言っているようでした。
暗い空、アップダウンのある道を行きました。
雨が再び降り出しました。
ひゃはっ!靴がびしょ濡れ~! ふやけてる~!
ふやけてる~!
それが妙に可笑しくて、またゲラゲラと笑いました。
人の心って不思議でした。
しんどい気持ちで歩くと、道は長く果てしなくバックパックも重く感じるのですが、
楽しい気持ちで歩くと、バックパックの重さなど気にも留めず、8km先の町まで、あっ!という間に着いてしまいました。
アルベルゲ満員
アズ・モロナスの町に着きました。アルベルゲを見つけ
宿泊をお願いしま~す。
「フル!」と一言で、あっけなく断られました。
次の町まで歩くしかないね。
しょうがないね~。
気持ちを切り替え、歩き出しました。すでに20㎞歩いていましたが、気持ちが軽やかで、まだまだ歩いて行けそうでした。
Koreaのお姉さん
すると、前に見かけたことのあるKoreaのお姉さんに会いました。
「アルベルゲがフルで、次の町へ行くところです。」と話すと
「私がチェックインしたアルベルゲは、ベッドはもうフルだけれど、地下室にまだ何人か泊まれるようですよ。」ということでした。
「よかったら案内しましょうか?」と言ってくれました。 どうする?
フィステラまでの道は、アルベルゲが少ないみたい。次もいっぱいかもしれないものね。
お願いします!と付いて行くことにしました。
バルの地下室に泊まる
そこはマダムが切り盛りしているバルでした。泊まって良いらしいのですが、準備ができるまで、バルの中で2時間ほど待たされました。
頼んだカフェラテもコラカオもなくなり、所在なく過ごしました。
やっと、マダムが
「こっちへおいで〜。」と呼んでくれました。
クレデンシャルにスタンプを押し
「一泊7ユーロ×3人分ね。」と言いました。
少々高いけれど仕方ありません。雨の中あてもなくアルベルゲを探し歩くのはしんどいことでした。
「ピルグリムディナーは頼む?どうする?」と聞かれました。
私は「イイナ、食べたいナ。」と思いました。
しかし、いつしかお財布係となっていたChaiが
宿代が思ったよりも高いし、3人分取られたよね。持ってきたパンでいいじゃない。 そう、そうよね。わかったわ~。
しかし、こういう雨の日には夕食ぐらいは豪華にしないと、1日のバランスがいま一つとれないなぁ、と感じました。
それに、宿のひとに悪いなぁ〜。 やっぱり、食べようか…。 いや、止そう。 いや、やはり食べよう。
それが良くないのだ!と自分に言い聞かせ
もう、決めたのだ。今日はパンをかじる!
地下室のマットレスベッド
地下室へ案内されました。広い床に、マットレスが5個ありまた。
以前、体育館に泊まったアルベルゲを思い出しました。
他に二人の巡礼者がいました。
Koreaのお姉さんは、地下室まで私たちを呼びに来てくれました。地下室の出口ドアは裏庭に続いていました。
裏庭からシャワーのある建物まで15mほど歩きました。そこは民家のようでした。
お姉さんは、この家のソファで寝ることになっていました。このあたりの家は巡礼者が多い時、そうやって部屋を提供してくれるようでした。
シャワーのお湯は温かく、ホッとひと息つくことができました。
せっかくシャワー浴びたのに…。
外は雨がザーザーと降り出していました。
勇気を出して、雨の中を小走りで地下室に戻りました。傘などないので、せっかくシャワーを浴びた後なのに、けっこう濡れてしまいました。
ありゃりゃ…。仕方ないやね、ああ寒い。
洗濯物を室内にロープを張って干しました。しかし、全く乾く様子がありませんでした。
地下室ディナー
地下室は電気がありませんでした。奥のベッドの巡礼者たちは、上のバルへ飲みに行ったようでした。
まだ明るいうちに、持っていたパンとハムと野菜でボカディージョを作りました。
DenとChaiは大口でパクつきました。
日が暮れ出すと、明かり取りの窓からの光がなくなり、部屋は徐々に暗くなりました。
一つのマットレスに3人並び、壁に寄りかかりました。
今日の「前半の道」と「後半の道」について話しました。
前半は朝から疲れていて辛かったんだけど、後半はバルの人がさりげなく優しくて、コラカオとポテトを食べて、あのモップ犬と遊んだらね、ほら、あの犬、すぐ寝っ転がってお腹だして撫でて~って来るの。それで笑っちゃって。そうしたら後半の道は、雨でも寒くても全然、楽に感じたの。心の持ち方次第で、同じことをしていても、まったく疲れ具合が変わるんだね!
それね!おもしろいね。日本に帰ってからの「普通の生活」に役立ちそうね!
ふわああ、そうらね。トカゲみて笑っちゃった…。
Denは話しているうちに眠ってしまいました。
そこをDenのベッドにして、私たちは移動しました。
マッサージで身体も心もスキンシップ
昨日も今日も、雨の中20㎞以上を歩きました。靴はびしょ濡れ、身体も足も冷えました。 ああ、ふくらはぎが痛~い。
あら~、肩もガチガチね。うつ伏せになってごらん。
わ~い!
暗くても、マッサージなら手探りでできました。全身をほぐすマッサージをすることにしました。
マッサージをしている間、Chaiは自分の言葉で、いろいろなことを話してくれました。
話はページをめくるように...
昨日、怒って歩いた時の気持ち。
巡礼で出会った様々な国の人々…。
初日に会った学校の先生をやめてきたドイツ人のモニカ。「あなたもカミーノに呼ばれたのね。」と意味深な言葉をくれました。
Chaiの誕生日に自分の大事なロザリオをくれたクリスチーナおばさん。
自分をヒールしてから人をヒールする仕事に没頭したいと言っていたオーストラリアのマッサージ師ペン。
教会で大失敗した私たちを追いかけてきてくれたラモン神父。
3人の男の子を育て上げスピリチュアルの探求に来たKoreaのパクお母さん。
1日に40㎞近く歩くタフなTeppiは、何年かに分けて巡礼を進めていました。決して諦めないパワーエピソードをもらいました。
スパニッシュオムレツを食べろ食べろとお土産までくれたオスピタレロのおじいちゃん。
ブルガリアから来た宿のおばあちゃんは山盛りのディナーを一人分しか受け取らなかったばかりか、翌日のお弁当まで持たせてくれました。
15ユーロとパンとチーズを手渡し「がんばれよ!」と応援してくれた公園のおじさん。
途中足の故障で巡礼を断念したギターが上手なリア。似顔絵を描いてくれたり、思いやりいっぱいでした。
疲れていてやっと椅子に座れたのに、あっさり人に譲ってしまう心優しいセルジュ。
貴重品の持ち方を教えてくれたS木さん。おかげで助かったのでした。
1日に50kmを走るように歩いたカナダのベイサン。一緒に歌いながらハーモニカを吹き歌いながら歩きました。
オウン・カミーノを教えてくれたアメリカ人のジェニファー。
足が悪いににわざわざ水を汲んで来てくれたおじいちゃん。
いっしょにChaiとDenと野っぱらで待ちぼうけしてくれたクリスティーナ。
パリで失くしたガイドブックの著者だったトモコさん。
庭に招待してくれ、冷たい飲み物とお菓子をご馳走してくれたアンヘリネス。
マンハリンのルイス。水無し電気なしトイレ無しのアルベルゲは最高でした。
不思議な知恵を持つ魔法使いみたいなイゴル。
分厚い英語版の村上春樹の小説を持って歩いていたロブ。
アルベルゲに入るとき、差別のために戦ってくれたホセ。
夢の叶え方を教えてくれたSTおじさん。
家族と思われていたSNおじさん。
口琴を教えてくれたDenの大好きな旅人ピノ。
巡礼のガイド役アランセンセイ。
彼らと出会い、一緒に歩き、いっしょに食べ、同じ風景を見て気の向くままに話しました。そのちょっとした一言が、胸に残りました。
じゃあね、またね!とみんなとハグをして別れました。
多分、もう会えないだろうナ…。
けれど、彼らの姿と言葉は、心のなかに焼き付いていました。
Chaiといっしょに思い出すエピソードは、きりが無くえんえんと続きました。
これは一生の宝物だね!
それから遡り、学校、友だち、自分の将来について、思っていることを、素直に話してくれました。
マッサージで気持ち良くなったのか、いつしかChaiの言葉も途切れとぎれになり、気が付くとスースー寝息をたてていました。
気持ちが残っているうちに日誌に書かなきゃ
私は、懐中電灯をベッドに置いて、その光を頼りに乱筆お構いなしの大急ぎの手で日誌を書きました。懐中電灯の電池が無くなりそうでした。
そして、いまChaiと話した気持ちが残っているうちに書いておかないと、これまた、もったいないのでした。
きっと、日本に戻ったら、また日々の生活にまみれ、忙しいと言い訳し、私も子どもたちも…、
行ってきま~す!
ただいま~!
あれやんなきゃ、これやんなきゃ!
と、慌ただしい日常になることでしょう。
マットレスベッドのマッサージとおしゃべりは、貴重な時間でした。
さあ、私も休むとしよう。
おやすみなさい。